The Lords of Salem 『ロード・オブ・セイラム』 観た

 ロブ・ゾンビの新作『The Lords of Salem』を観た。半端な英語力で観ているから、ちょっと誤解しているかもしれないけど、今現在において分かった範囲で、話してみたい。
 たぶん賛否両論が分かれる映画だと思う。ストーリー自体は難解でも何でもなく、ある意味で予告編通り。つまり、サタン来てぇーって話なんだけど、後半になると高橋ヨシキも指摘していたようなトリップ映像、というかライヴ映像?というか演劇?のようになっていって、『ロッキーホラーショー』というか、何と言うかミュージカル?みたくなるので、そこらへんでアレレっていう人と、うわー、いい!!みたいになる人とくっきり分かれそう、その意味で賛否両論だと思う。ここら辺の賛否は『ハロウィン2』の幻覚シーンで、ぐぐっと来なかった人も安心できるくらいにクオリティーが上がっているので、ああいうのだったら厭だなぁと思っている人はひとまず安心して下さい。
 繰り返しになるけど、ストーリー自体はほんと、シンプルというか宣伝で言っている通り。そのまま。それ以上でも以下でもない。ラジオDJが悪魔の音楽を番組でかけちゃって、町も自分もどんどんおかしくなっていく、というもの。途中で「これはまずいんじゃないか?」とか気づく人がいたり、クライマックスまでに「これって悪魔の・・・」とか、そういう感じで盛り上げていく。だから宣伝でばらしている粗筋が実は結構、ハナシの終盤まで映画の中では伏せられているモノだったりするんだけど、ま、お約束だよね、そんなの。
 しかし、町がおかしくなる、とか悪魔が出て来て『エンドオブデイズ』みたくなっちゃうとか、そういう事はかなり控え目というか、映像では見せない。主人公が体験する幻覚?というか舞台?でおぼろげに語られるだけだから、そういうPV?が出てくるだけで町が爆発するとか家が燃えるとか人々が発狂して『サスペリアテルザ』みたく赤ちゃんを橋からぼーんするとか、そこらの車を壊すとか、そこらで殴り合うみたいなことは一切、描かれません!
 どこまでも、あくまで主人公視点、うーん、主人公視点というか主人公周囲の話だけを見せて、後は『シーバース』方式。つまりラスト、エンドクレジットでラジオ音声で話に広がりを持たせるっていうアレね。だから舞台になるのはラジオ局と家、自宅という限定されたものだし、登場人物も同じアパートにいる婆さんらとラジオ局の人、あと数人という、かなりクローズドなもの。モブでラジオ聴いている人っていうのも少し。
 まず、悪魔の音楽がなかなか雰囲気があっていい。個人的には『セルビアンフィルム』の音楽は、かなり悪魔っぽかったけど、あれよりももう少しレトロな感じで、クライマックスでは鉄弓みたいなのでバイオリン弾いたりして演奏するんだけど、あれはなかなかおどろおどろしい素晴らしい曲だと思った。日常の場面でも重低音が鳴っていたりして、不気味演出は完璧だし、相変わらず一昔前、と言っても60年代、70年代がもはや50年前になんなんとする時代だから二昔前くらいか、あの時代の音楽もかかるし、ああいう音楽が好きな、というか今までのロブ・ゾンビ映画でかかってたサントラが好きな人は今回も楽しめると思う。『グラインドハウス』の音楽とか好きな人はね。モーツァルトのレクイエムかな、悪魔に教えてもらったとかいうクラシックもかかってゴス度は全開ですね。モーツァルトのレクイエムとか「怒りの日」は一体、というかバッハのカノンとか、何本の映画で使われているのか、それだけで研究書が出来そうである。誰かまとめて書いてくれないかなー。
 小道具だったり美術でも色々面白いとこがあって、『セヴン』でも出て来た現代美術か何かの紅い蛍光灯十字架とか出てくるね。あと『月世界旅行』のスチールが壁にばばーんと張ってあったり。こういう小道具とか美術が凝っているっていうのは今までもザッパとかアリス・クーパーのポスターとか、彼の映画はそういうところがマメというか楽しい。
 俳優も相変わらず好事家の喜ぶラインナップであると同時に、みんな役にはまっていて単なる好事家のラインナップに終わらずに適材適所なところが良い。スペシャルサンクスにはクリント・ハワードやウド・キアーの名前もあって少しびっくりした。びっくりしたと言えば、プロデューサー(もちろんロブ・ゾンビ自身も金出している)の一人にオーレン・ペリの名前があったこと。彼の映画はともかく、こういう人もこの映画にお金出しているのかとびっくりしたな。
 主人公の見る幻覚描写は少し日本のホラー演出っぽいところもある、ような気もするけど、個人的にはデイヴィッド・リンチっぽいと思った。部屋が並んでて、紅いドアがあって、なんて『インランドエンパイア』みたいだし、公園で犬散歩させてたら、「・・・」っていう本当に素晴らしいコワーイ場面なんて、いや本当この場面はこわいよ、向こうから変な人が歩いてくるだけなんだけど、この恐さは個人的には『ローラ・パーマー最後の七日間』の、いきなり子供が出て来てぴょんぴょん跳ねる場面なみの恐ろしさだった。何が恐いのそれ、と思う方もおられるだろうが、よく分からないものって不気味で恐いのである。そしてこの映画はそういう意味でははっきり言ってよく分からない。特にクライマックスで幻覚なのか何なのか、舞台なのか何なのかみたいなのが現実よりも優先的に描かれるようになってから、メインになってからは悪魔学に乏しい私にははっきり言って、種から芽が出たくらいにしか意味を取ることが出来なかった。これが何の種でどの季節に植えるとよくて、どんな華が咲くとかそういうことは一切分からなかった。これ喩えですからね、実際、植物の話が出てくるわけじゃないですからね。
 リンチつながりで言えば、舞台ですごいことが起きるっていうか、舞台を異次元として描くって意味でも『マルホランドドライブ』と通じるとこを感じたりもした。リンチの映画ってよく劇場が出るよね、ここ最近の二作は。
 意味が分からない代わりと言っては何だが、この映画の不気味さ、異常さ、異様さはここ数年のアメリカンホラーの中でもトップと言っていいと思う。異常な映画が観たいという私にとっては、まさにこういう映画に飢えていたわけで、本当に美味しくいただくことができた。意味や人間的なストーリーなんてものを捨て去って、非人間的で、暴力的な、何だかよく分からないけど恐いという、感情をゆさぶられるという意味で真に感動的な作品だと思う。異形の映画という意味で、昔の一風変わったよく分からないゴミ映画のようでもあるし、と同時に全く古くない、新しい今の時代のトラッシュムービーとして、懐古趣味の粗造品ではなく、ちゃんと成立している稀有な映画だと思う。
 神代辰己の『地獄』にも通じる、ある種のキッチュな特殊メイク、あとぶっ飛び具合もあって、悪魔映画というか、地獄映画のようでもあり、最近こういう、本当にいっちゃって帰ってこない映画は絶滅危惧種なので、出遇えてよかったし、大好物である。まだ、おれの好きなこういうのを作っている人がいるんだと思うとロブ・ゾンビにはたまにでもいいから、監督してほしいと願ってやまない。若松とか大島みたいな頭がおかしい監督がいなくなってしまった今となっては日本では高橋洋くらいしか頭おかしい映画を作る人はいないように思っているので、アメリカにロブ・ゾンビがいてくれると本当に助かるんだけど、こういうのやっちゃうと『インランドエンパイア』を撮ってしまったリンチみたいに、もう当分は映画なんか作れなくなってしまうのだろうか。リンチにも撮ってほしいのだけど・・・
 神代辰己の『地獄』は真の傑作だとおもうのだけど、まぁ、それはおいといて。でも、『ハロウィン2』なんて、『地獄』に通じる映画だったと思う。地獄に堕ちる運命を背負った女、殺人鬼の因縁を持つ女、ちょっとコジツケか。しかし、今作が描くのも、まさにそうした因果だ。サタンの花嫁となるために生まれて来た女の、悲劇というか何と言うか、それが描かれるわけだから。こうした因果思想は実際のところ、仏教でいう因果観念においては誤りではあるのだけど、「力の表現」としては優れていると思う。思想的には間違いであっても、表現としては優れている、というわけだ。
 今作『The Lords of Salem』は現時点でのロブ・ゾンビの集大成であり、また最高傑作だと思う。一作目『マーダーライドショー』のアヴァンギャルドなイメージをアップデートし、生々しさ、荒々しさはそのままに、それらをキャリア上において最も洗練されたカメラワークや美術で包み込んである。映画の技術的(カメラ、照明、美術)側面はきっちりしていて、やっぱりライヴやっている音楽家だから照明とかばっちりだし、それでいて狂っていて、劇薬と呼ぶのが相応しいような異作となっている。私個人としては、そう思ったし、ここ数年のアメリカンホラーの中で最も素晴らしい作品の一つであると断言したい。
 最後に、これが日本で公開されるかどうか、というどうでもいいことについて少し書きたい。
 おそらく映倫の審査ではR-18をくらうだろうと思う。『マニアック』でさえ、18指定を受けて、さらに指導を受ける必要があるというのだから、っていうかエロ以外のものにボカシを入れる、でなきゃ15指定にならないとか言っているのだから、今作はもう、これは当然18指定をくらうだろうことは確実である。指導というか、作品に対する毀損(モザイク等)がどれくらい入って18指定に納まるのか、それとももっと規制がかかるのか、はたまたエロだけでなくグロにもぼかしをいれて15指定で納まるのか、全く以て映倫の審査基準のデタラメさが分からないものだから、私に分かるはずがないのだが、男性器をみんな横並びでこすっている場面などあり、それは間違いなくぼかされるだろうし(修正って言い方は間違っていて、毀損だとおもう、まぁどうでもいいか)、ババアの裸がけっこう頻繁に出てくるので、あれら老女の股間にもモザイクが入るのだろうか、後半には全裸女性が束になって画面に向かって歩いてくる場面なんかもあるので、あれにいちいち網をかけてたら、下手をすると一昔前、VHSの頃の『ソドムの市』みたいに、もう訳が分からんことになるような気もしないではない。画面の下半分はもう全部モザイクなんて馬鹿なことになるんでないか、とか、まぁどうでもいいか、もうブルーレイで買えばいいんだから。海外から。
 どんな形で公開されるにせよ、尺が切られるってことがないといいのだけど。シネコンでは流石に買えないような映画のような気もするけど、今はシネコンも『マニアック』とか買っちゃうから、どうなるか分からない。さすがにここまでえぐいとミニシアターで、ってことなのかも知れないし。えぐい、っていうのは残酷描写って意味でなくてエロもあって、暗示的なグロがあるっていうか、倫理的にアウトだなーって事です。鍋で人を殴殺するくらいだから、別段ぐちゃぐちゃってわけでもないけど、生理的な嫌悪感は結構感じました。祭壇のぼった向こうに変なのがいて、その変なののヒモみたいなの握ってぶるぶるーとかああいうのは、ちょっと、気持ち悪いっていうか気味悪いし、そういう意味で直接的なグロよりよっぽどグロテスクに感じましたね。たまにレヴューとかで「思ったよりグロくない」とか言っている馬鹿がいますが、てめぇの感性のにぶさを呪ってくれ、と。・・・何か書こうとしたけど忘れちまったよ、話が横道にそれたせいでね。きっと邦題は複数形は無視して『ロードオブザリング』と同じで『ロード・オブ・セイラム』だろうね。っていうか配給つかないでソフトスルーだったりするかな、どうだろう、だったら残念だな。
 とにかく!『マーダーライドショー』二部作も『ハロウィン』二部作も、『ホステル』二部作も『ヒルズハブアイズ』リメイクも大好きだけど、変な気味悪い映画という意味では随一、大怪作と言っていいでしょうし、素晴らしい作品だと思います。大画面で観たいから、ぜひ劇場でやってほしいし、楽しみです。

追記
上映決まりましたね!上映劇場がホント少ないけど、、、予想と違って15指定でしたね。さて、どれくらいの修正が入るものか。