クローネンバーグとラッセル・マルケイの駄作

誰も覚えていないか、観てもいない映画の話である。

ラッセル・マルケイは『レイザーバック』でデビューし、その後には『ハイランダー』なんかを撮ってるPV監督あがりの映画監督である。ビリー・ジョエルとかクイーンのPVを手がけたというから大したものだ。その彼が99年に撮った映画が『レザレクション』。大体、マルケイは『ハイランダー』以降、まともな評価のある作品をほとんど撮っていない。最近の仕事といえば『タロスザマミー』のようなコアなホラーファンでもタイトルしか知らないものだとか、『スコーピオンキング』の続編、『バイオハザード3』などの超駄作ばかりで余程の彼のファンであるか、もしくは偶然にでも目撃しない限り、人が好んで手に取ることはなかなかない作品ばかりである。しかし、まぁ、ちょっと「映像演出の凝った監督」というだけで何年も食いつないでいるのだから大したものだ。仕事が定期的にまわるというのは、もしかしたら彼の人柄なんかによるのかも知れない。が、それは知る由もない。ただ割と優秀なスタッフが彼のまわりにいたことも確かだ。『マッドマックス2』から『ゲットスマート』まで未だに職人的に仕事をこなしているディーン・セムラー(撮影)、音楽のマイケル・ケイメン(大好き)、脚本のデヴィッド・コープ、他にも製作総指揮がゼメキスだったり、特に思い入れはないが、割と名前を聞く人がちらほら。しかし映画はというと『ハイランダー』も北村龍平とかが好きな人にはウケるかも知れないが、ちょっと難点あり。たぶん一番まともだったのはデビュー作の『レイザーバック』だろう。モンスターアクションのガジェットをうまーく使って、かつ低予算でありながら、確かにはっとするような幻想的なシーンもあり、なかなかよく出来た一筋縄ではいかない変化球映画であった。

ふんふん、で。ちょっと「映像演出の凝った監督」であるマルケイ。この手のくくりで一昔前に真っ先にあがってたのは、そう。かつてのデヴィッド・フィンチャーだったのである。彼もデビューの際にはマドンナとかストーンズのPVを撮った新進気鋭の「映像演出の凝った監督」として宣伝されていたし、試金石となるべき初監督作はB級ジャンルとして名高いモンスターもの、つまり『エイリアン3』だった。一部にはうけても、一般受けはきついハードな内容の映画で、今でこそいいという人も多いが、それはジュネの4があまりにクソだったからというのも多い気がする。だったらトリロジーで、というわけだ。次に彼が95年に撮ったのが『セヴン』。この映画はご存知のように名作として名高い。黙示録的な世界観、銀残しは大流行、カイル・クーパーのOP、etc。とにかくヒットした。

この時、PVあがりの先輩格にあたるマルケイは『ヴァンゲリア』なるドラマの一話を担当。これももはや誰も記憶にない映画で、まるで『女優霊』の劇中映画のような「消えていく映画」である。まぁイーストウッド出演といって『半魚人の逆襲』が残るのだから、ユアン・マクレガーの名の下、この世から消え失せることはないかも知れないが。その後は『ハンガー』のドラマ版、クリストファー・リーを起用した『タロスザマミー』、などの鳴かず飛ばずの作品を製作。リーはこの後、沢山の映画でカムバックする。

フィンチャーはと言えば、『ゲーム』、『ファイトクラブ』と小粋な作品を連発し、『パニックルーム』もまぁまぁ、製作総指揮を少しやって十年ごしで「映像監督」のレッテルを逃れた『ゾディアック』を発表。長いみそぎを経ての『ベンジャミンバトン』であったと思うと険しい道のりを歩んでいるようにも見える。2000年にはターセムなんかの新しい「映像監督」も現れて、06年には『落下の王国』なんてのもある。映像系ではここんところの収穫といえばこれだと思う。99年以降はスパイク・ジョーンズミシェル・ゴンドリーなんかもデビューしてる。

99年くらいを境にどっと映画界にPVあがりの映像屋さんがたくさん入ってくるのだけど、この時、元祖PVあがりのマルケイが撮ったのが『レザレクション』って映画。

これが『セヴン』を脚本から撮影方法、ロケハンまで丸パクリしたとんでもない映画で、まさに映画から生まれた映画なのだ。台詞もほとんど同じ、わざわざそういうことするから脚本はむちゃくちゃ。ロケーションもビルのガラス戸や雨、廃墟を走る犯人、などなど枚挙にいとまがないほどそっくり。七つの大罪になぞらえた犯罪、ではなくキリストの復活をめざして人体をコレクションする異常者が出てくるが、聖書に話を持っていくあたり、モームがやってた役割なぞなく、ランバートが自分でブラピとモーガン一人二役みたいにやるからさらにむちゃくちゃ。彼はきっと『セヴン』を観て、おれだったら、とこの映画にお金まで出して、かつストーリーにも手を出してるみたいだ。

先輩格にあたる人間が落ちに落ちて後輩の作品を露悪にまねする。その罪は深いのか、マルケイにはもはや二番煎じの作品しかまわってこないのだった。

この映画『レザレクション』で唯一おもしろいことがある。それはクローネンバーグの出演で、『ミディアン』ほどではないが、『ジェイソンX』よりは出番もある。まじめな神父役をやってて、こういう経験が『イースタンプロミス』のイェジー・スコリモフスキの起用につながるのではないだろうか。そう考えるとクローネンバーグのキャリアにおいて、ちりほどの影響を与えたのかもしれない。