『暴行切り裂きジャック』、クレジットの美学

 長谷部安春監督作、傑作。
 ケーキ屋で働く男がある女性店員を家まで車で送ってやる途中、雨の中にたたずむ女を乗せる。その女は体にケーキをぬりたくり、体にケーキナイフを突き立てる。ここは『悪魔のいけにえ』を彷彿とさせるおぞましさ。女を車からひきずりおろすが、間違えてひき殺してしまう。その犯罪のスリルに男女ともに燃えに燃えて暑いセックスにはげむ。以来、女は殺人抜きには性を楽しめなくなり、二度三度と殺人とその後のセックスを二人は楽しむが、男のほうが暴走していき、リチャード・スペックよろしく最後は看護婦寮に忍び込み次々に女を殺す。しまいにはそれまでの付き添いだった女性店員をも殺し、いきなり幕切れとなる。 (若松孝二の『犯された白衣』も同様の事件から着想を得た作品、おすすめ。)
 破天荒なストーリーが妙に甘ったるいボサノヴァちっくなサウンドとともに展開する。女性器にケーキナイフを突き立てるシーンが幾度となく反復されるが、バックでは常に居心地のいいまったりした音楽が流れていて、その凄まじいギャップにはおどおどしてしまうほどだ。
 女が最初は手引きして男を狂気に引きずり込むのだけど、最終的には男のほうがのめりこんでいくという共犯的な人間関係を繊細に描いており興味深い。何しろケーキナイフで人を殺す、和製『俺たちに明日はない』といったところで希有な映画である。
 長谷部監督だけあって、たるみなくドラマは動くしアクション場面、特に屋上での命がけの撮影なんか本当にはらはらする。オープニングシーンがyoutubeにアップされているが、クレジットがかくっと切れるとこなんて、もしかして『CUREキュア』に影響があるのかと思うくらいかっこいい。とりあえず観て損しない作品。