『悪の華』

最近では、ここは私の好きな文章の保管庫と化して来ている。それに加えたい素敵な文章を見つけたので載せておく。
http://ameblo.jp/kyodai1964/theme-10032418338.html

休講の日は、あてもなく本屋めぐりをして、女装に関する本を見つけては立ち読みして、自分の暗い欲望を満たしていた。ある日、いつも行く書店で上村一夫の「悪の華」3巻本に出会った。
上村一夫は、『同棲時代』や画狂人葛飾北斎をめぐる人間模様を活写した『狂人関係』からファンだった。浮世絵を思わせる色気のあるタッチが今でもたまらなく好きだ。

日本の政界、上流階級を手玉にとって暗躍してきた華道黒髪流の当主 花矢木蘭之助の色欲にただれた暗黒の快楽世界が絵として躍っていた。蘭之助は、生きた女を生花として生けたり、生ける器として生きた女性を使う被虐の極みを尽くしている。そこへ、可憐で純真なヒロイン小百合が身請けされ、性の奴隷として調教されて、"悪の華”として開花していくストーリーだ。
純真な小百合を救い出そうと、花矢木邸に乗り込んだ婚約者(社会悪を許さない正義感溢れる、常識的な新聞記者)が、逆に蘭之助に捕らえ、命を奪われそうになる。助命を願い出た小百合に、蘭之助は、小百合に手伝わせながら女装をし、こう言った事を語る。「自分は幼少の頃から先代に女装させられ、調教された、だから、女として犯される屈辱も快感も味わっている。それを、お前の婚約者に味わせるのならば、助けてやろう。」と。
小百合は、婚約者に「私を愛しているのなら女装してでも助かって。」と懇願する。少し腹の出た童顔の婚約者は、蘭之助と小百合の狭間に立たされ、ついに女装を決意する。化粧され、衣装を着けて、1人のぽっちゃりとした有閑マダム風の婦人に化身した時、婚約者は「その時、快感であった。」と女装に溺れ、蘭之助たちに乱交されてしまう。
女装、処女喪失、そして「女」として辱められる快楽を知った婚約者は、もう正義感に溢れた好青年ではなくなった。身に着けた下着を握り締め、もだえ苦しむ。そんな婚約者を蘭之助は後ろから抱きしめ、「女」になった悦びを囁くのだ。(本当はこのシーンはエロい以上に、人倫にもとるシーンなのでこの程度で)悩み苦しむ婚約者を見かねて、小百合は男装し、婚約者を女装させ、逆転した交わりを結ぶ。
自らを女にする事の悦びに完全に堕ちた婚約者は、女装し、屋敷を出て、婦人靴の店に行き、ハイヒールを試着する。その拘束される靴のきつさに悦び打ち震えるまでになっていた。その時、彼の母親が、偶然にもその靴屋を訪れ、女装した息子を呼び止める。その時、彼の妄想の世界は崩れ去り、現実の世界に取り残された事を知るのだ。彼は、ウィッグを捨てて、逃げ出す。女の服を着たまま彼は、とぼとぼ歩いていると、子どもたちに「おかま、おかま」と囃し立てられ、絶望した彼は公園の公衆トイレで首を吊り、命を絶ってしまうのだ

大学のキャンパスは、まだ学生運動の残り香が漂い、平和運動はじめ社会運動に取り組むサークル活動もキャンパスの一齣としてあった。他の学生と同じく、僕も勉強も含め、キャンパスにあるものに等しく興味を持って生活していた。

夜のあの世界に身を堕としてみると、友人と笑いながら歩いていても、どこか罪悪感が沸き起こり、自分の「本性」を晒してしまいたい欲情にかられた。もだえている自分の痴態が僕を深い沼に引き込もうとするのだ。「悪の華」の婚約者の運命が自分と重なって、しばしば何もないのにゾッとして後ろを振り返った。破滅へ向かっているのかどうか不安だった。

Uさんとは、店で会うと、時間が合えば、例の部屋に行き、色々なプレイを教えられた。とは言っても、貧乏学生の身では足しげく店に通う訳にもいかなかった。僕が行く時は、Uさんは必ず店に来ていたし、色々な相手と一晩の内に例の部屋に行ったり来たりしていた。不思議なもので、そんなUさんを見ると、振り向いて欲しいと心のどこかで思っている自分がいた。自分が何者なのか分からない、そんな日々が積み重なっていった・・・