淀川長治の迷怪説

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淀川長治の名(迷?)解(怪?)説、文章に起こすとまた面白い!
一つ目はフリッツ・ラングの『M』、二つ目はグリフィスの『国民の創世』。

フリッツ・ラング監督の『M』。怖かったな~。これドイツ映画ですよ。フリッツ・ラングがまだ若かった頃の作品ですね。

で、これはどういう話か言いますとね、なんか知らないけど、町の女の子が殺されるのね。残酷に!それで、みんなが震えあがっているのね。そしたら、目の見えない風船売りのお爺さんがいたのね。そのお爺さんが、どうも犯人らしい男がいつも口笛を吹いて通る、なんて思っていて。
ある時、本当にその口笛を聞いたんですね。「あれだ!あれだ!!!」と思って、側にいた青年に、「あれが犯人ですよ! 犯人ですよ!」と言ったのね。びっくりして、「そうか、あれか!」というので、自分の手に白墨塗って、その男の後ろから、“M”という字をパーンと当てて、その男の後ろにMという字がついたのね。

そのMが犯人であると言う事で、みんなが探して回って捕まえる。

怖い、怖い映画でしたが、これが『M』 のフリッツ・ラング出世作ですね。ドイツ映画ですね。

それで『M』 は何で、“ M ”という字がついたか?
やっぱり殺人者ね。その頭文字がついた訳ね。で、本人は分からないの。ポーンと背中叩かれたから、「なんだろう?」 思ってるけど、背中に、“M” という字が出てたね。

で、怖いのは、この犯人が何かと言うと子供に風船をやるのね。風船やると子供喜んで持つのね。その風船が怖いのね。
電線の線に風船が引っ掛かってたの。あれ見て、怖いなー!怖いなー!思った時に、その現場の近くで、やっぱり女の子が殺されてるのね。殺されておりました。

この映画の主役が、ピーター・ローレですね。ピーター・ローレ、黙っていても怖い、不思議な顔の男ですね。で、ピーター・ローレは、この 『M』で一躍有名になりました。

そういう訳で、『M』 と言うのは、フリッツ・ラングのドイツの代表傑作ですね。怖い、怖い映画。これでフリッツ・ラングは、やがてアメリカに連れて行かれた。けど、この人は『メトロポリス』作ったり、もう大監督ですよ。

で、私は、このアメリカで、このフリッツ・ラングに逢いました。逢った時に、「、フリッツ・ラングさん。あんたの『メトロポリス』『ジークフリート』みんな良かったけど、『M』も良かったですねー」って言ったら、僕に抱きついて「ここへ上がれ!」と、机の上にポーンと置いて、僕は上からフリッツ・ラングを見るような立場で、物を言ったぐらいに、フリッツ・ラングは、『M』 の事を言ったら、喜びましたねー。

はい、デビット・ワーク・グリフィス、D・W・グリフィスの『國民の創生』。
イントレランス』、『散り行く花』、『東への道』、グリフィスはとっても有名ですね。
けれども『國民の創生』は、もっと古いですから、ご存知ない方があるかもしれませんから、ちょっとこの大事なグリフィスの名作の話をしましょうね。

で、『國民の創生』ってなんでしょう?BIRTH OF NATION、『國民の創生』ですね。
これは、どんな話かと申しますと、南北戦争が始まる前に、南のお嬢ちゃんと北の坊ちゃんが仲良かったんですね、仲良かったけれども、南北戦争で二つに別れたんですね、この男女は生き別れになったんですね。

そういうような話なんですけれども、この映画で見事だったのは北軍と南軍の大戦争ですね。もの凄い戦争ですね。
これでもしも戦争が激しく、激しく、激しくなったら、アメリカは二つに別れなくちゃならなかったんですね。

さあ、そこでこういう言葉があるんですね、House Divided、二件に別れた家、というような言葉がアメリカにあるんですね。それは南北戦争のことですね。
南北戦争がもし燃え上がって、燃え上がって、リンカーンが暗殺されなかったなら、この二つの国が生まれるんですね。

これは見事に治まったことで有名な話なんですけど、そこで初めて『國民の創生』、アメリカいうものが出来たんですけれども、この映画で何が凄かったかいうと、アメリカのこの歴史ですね、いかに、いかに、北軍が南部の黒人達を憎んだか、いうことが見事に出てるんですね。

というのは、グリフィス自身が北軍の人なんです、北軍びいきなんですね。
それで黒人を随分、随分苛めたんですね。
だからこの映画に始めて、K.K.K.というのが出て来るんですね。
クー・クラックス・クランとか言うんですね。
これは顔をかくして、白い服を着て、馬に乗って、何か木の棒を持って、ずーっと廻り歩いて黒人見たら殺すんですね。
怖い、怖い連中、K.K.K.、今でもこのK.K.K.、アメリカにいるんですね。

黒人はみんな、みんな殴り殺すんですね。黒人の家を焼くんですね。なぜそんなことをするんだろう、いや、黒人はいやなやつだ、黒人は悪いやつだ、顔がブラックでいやだ、そういうような時代があったんですね。

この南軍北軍の物語、この映画の終わり、やっとアメリカが一つになった、アメリカが一つになった、タイトルが『國民の創生』ですね。
というような話なんですけれども、当時、本当にそのころ日本に北軍の唄が流れて来たんですね、“ダンダンダダンダダンダ...”と流れて来たんですね。

私が幼稚園の頃、日本に流れて来たんですね。で、日本の唄になったんですね。“アナタノアーイノ、ツユウケテ、キーノウハージメテ、ワラッテヨ”まあ、そんな唄になったんですね。

よく考えたら「あなたの愛の露受けて、昨日始めて笑ってよ」、いやらしい唄ですね、というような事で、その時分にもうすでに北軍の行進曲が日本に入ったいうこと、それもおもしろいですけど、『國民の創生』は、その時代の話ですよ。